大判例

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東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)276号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 審決の理由2及び3に記載されているように、本願発明における本件カプラーが引用例の発明における三種のカプラー(以下「引用カプラー」という。)に相当し、両発明のカラー現像工程に差異がないこと、カラー現像停止後の脱銀処理につき、本願発明の特許請求の範囲には「漂白定着液で処理する」と記載され、引用例には「通常の方法で停止、定着、漂白の各処理を行なつた。」と記載されていること、右にいう、漂白定着、停止、定着、漂白の意義が原告主張(請求の原因四1)のとおりであることは当事者間に争いがない。そこで、以下において引用例の右記載の技術的意義について検討し、原告主張の審決取消事由(請求原因四4)の有無を判断する。

三1 引用例の右記載は、カラー現像を停止した後に脱銀のために定着(銀塩の溶解除去)及び漂白(銀画像を銀塩に酸化)の各処理を通常の方法により行つたということを示し、特定の方法を除外したり、特定の方法によることに限定していないから、引用例の発明出願当時、カラー現像を停止した後の脱銀のための一般的方法として当業者間で認識されている公知の定着及び漂白の各処理を行つたことを開示しているものと解するのが相当である。そして、本願出願以前から、脱銀のため定着と漂白を一浴で処理する方法と各別に二浴で処理する方法が公知であつたことは当事者間に争いがない。また、成立に争いのない乙第一号証には被告が指摘するような記載があることが認められ、この記載によると脱銀の処理方法として一九四〇年代までは二浴処理が採択されていたが、一九五二年公告のドイツ特許(Nr. 866605)以来一浴処理が二浴処理に比し操作が簡単で液の化学的安定がすぐれているとして、二浴処理に代つて又はこれと併用して採択することが可能となつたものということができる。

このような事実から推して、引用例の右記載にいう「通常の方法」による定着、漂白の各処理中には二浴処理だけでなく一浴処理の方法を含むものと認めて差支えないものというべきである。

2 原告は引用例の前記記載には一浴処理の方法は含まれない旨主張するので、この点について判断する。

(一) 原告はまずその理由として、本願出願以前黄色形成カプラーを用いる場合、一浴処理によつては満足すべき発色濃度及び色彩画像を得ることができないというのが技術水準であつた旨主張する。なるほど、成立に争いのない甲第五号証中には原告の右主張に副う記載がみられないではない。しかし、他方わが国における刊行物である前掲乙第一号証(昭和四四年五月五日発行)には一浴処理可能なカプラーを限定したり、それが不可能なカプラーを示す記載もなく、また、本願出願以前、前記のように、一浴処理が二浴処理よりすぐれた技術であることは当業者にとつて公知であつたのである。原告が一浴処理の効果として主張する所要時間の短縮、工程の単純化は一浴処理採択による自明の効果であるし、シアン発生の問題もないことも、前掲乙第一号証によれば、一浴処理液では二浴処理の際に用いられる赤血塩を使用しないことが認められるから、当業者が本願出願以前当然認識していたものということができる。したがつて、引用例の発明者も本件カプラーと構成を同じくするその発明に係る引用カプラーについて、カラー現像停止後二浴処理よりすぐれている一浴処理をまず試み、これによつて、脱銀後所望のカラー画像を形成し得たものと推認することができるのである。

もつとも、本願発明の一浴処理に使用される漂白定着液の成分が新規なものであれば格別であるところ、成立に争いのない甲第一号証によれば、本願発明の明細書中の発明の詳細な説明の項に「本発明によるカラー写真画像の形成方法に使用される漂白定着液は、公知のハロゲン化銀の溶剤と銀の酸化剤を含む漂白定着液の中から任意に選ぶことができる。」との記載(一二四頁一一行ないし一四行)があることが認められる。そして、前掲甲第一号証及び乙第一号証によれば、本願発明では、乙第一号証が示す公知の漂白定着液の主要成分である有機酸のアルカリ・第二鉄錯塩(漂白剤)、チオ硫酸ナトリウム(定着剤)とそれぞれ同種のEDTA(二ナトリウム塩)又は鉄(Ⅲ)・エチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩(いずれも漂白剤)、チオ硫酸アンモニウム(定着剤)を主要成分とする漂白定着液を用いていることが認められる。かように、本願発明において、新規なものではなく公知の漂白定着液により引用カプラーと構成を同じくする本件カプラーについて所望の色彩を得ることができたのであるから、引用例の発明者も引用カプラーにつき公知の一浴処理を試みたものと推認することに不自然な点はないものというべきである。

(二) 次に、原告主張の甲第四号証は、成立に争いのない同号証によれば、出願人を小西六写真工業株式会社、発明者を松尾俊二外四名とする昭和四六年一二月一七日付特許出願の公開公報であり、成立に争いのない甲第三号証の一、二によれば、引用例は出願人を同株式会社、発明者を右松尾俊二外二名とする昭和四五年一二月一六日付特許出願明細書であるところ、右甲号各証により両発明を対比すると、甲第四号証の発明には発色現像液としてパラフエニレンジアミン系発色現像主薬を含むアルカリ性液を使用する旨の記載があるのに、引用例にはそのような限定がない点で両発明は一応相違しているものと認めることができる。これによれば、甲第四号証の発明の出願人及び発明者は、右発明が引用例との対比においてカラー現像停止後の脱銀のための処理は差異がないが、右の発色現像主薬使用の点で差異があるとの認識のもとに出願したと推認する余地もあり(右の点が出願後、特許庁又は裁判所において実質的に同一であると判断されることはあり得るが、そのことと出願当時の出願人及び発明者の認識とは自ら別問題である。)、必ずしも原告主張のように、甲第四号証の発明がカラー現像停止後の脱銀のための処理方法の点だけで引用例記載の発明と相違するとして出願されたものと断定することはできない。

四 以上述べたところによれば、原告主張の取消事由は理由がなく、本願発明と引用例記載の発明との間に差異を認めることはできない。そして、本願の発明者と引用例の発明者が同一でなく、本願出願の時において本願出願人と引用例の出願人が同一でないことは当事者間に争いがないから、本願発明は特許法二九条の二により特許を受けることができない。

五 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

α―位がジアシルアミノ基および脂肪族アシル基によつて置換されているアセトアミド型黄色形成カプラーを含有するハロゲン化銀カラー写真感光材料を芳香族一級アミン現像液を含むカラー現像液で処理した後、漂白定着液で処理することを特徴とするカラー写真画像の形成方法

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